なんでもRC日記


なんでもRC日記

〜 RR2000参戦記 〜

(2000年2月27日)

投稿:都築由浩さん


2月27日(日)に兵庫県明石市にある「ホビーショップ高木オフロードコース」で行なわれた「Rally Racing 2000」のレポートです。


「RR2000その1」


『大阪の夜は5時をすぎた。雨は……』
降ってない!
前日の大阪は雪であった。未だ乾かぬ駐車場の路面を見て、都築の頭に一瞬の不安がよぎる。
しかも
「めちゃめちゃ寒いやんけ!」
空気はキンと音を立てるように冷たく、愛車ゴルフの窓ガラスにはうっすらと氷すら張っていた。
それでもキーをひねるとゴルフはすぐに目覚め、まだ明けやらぬ大阪を神戸に向けて走り始めた。
「てゆうか、まだホンマに『夜』なんですけど……」
思わず自分に突っ込んでいた。

オービスの嵐をくぐり抜け、時間調整の明石パーキングエリアでレトルトのカレーを食って、たどり着いたのはJR大久保駅。時間は7時。
ここで7時15分に春野さんと落ち合う約束であった。
7時10分、とりあえず自分の昼食のためのおにぎりとパンとベビースターラーメンをコンビニで買い込む。
7時15分。けぇへんやんけ! てゆうか、なんで電車が10分に1本やねん。
7時20分。春野さんは来ない。駅に着く電車の姿もない。
7時25分。サーキット入場開始5分前。
「もぉあかん。春野さんのことや、タクシーででも来るやろう」
あきらめて動き出そうとしたその時、駅の階段から紫色のバッグを下げて駆けてくる一人の男の姿が目に入った。
「すんませ〜ん。寝過ごしましたぁ」
「とりあえず昼飯買うてきたら?」
「あ、は〜い」
大久保駅前を出発したのはちょうど7時半であった。

入場開始に遅れた二人にピットスペースは残されているのか?
音信不通と化した浜崎さんの身に降りかかった不幸とは?
そして彼らの前に、謎の男が現れる。
次回、『ピットスペース絶対零度』
君は、生き延びることが出来るか。


「RR2000その2」


「荷物下ろしはこの奥でやって、それからクルマはあちらの方に移動してくださ〜い」
畑の真ん中に開けた広大なサーキットと、駐車場。
そこにはいるとすぐにスタッフがそう声をかけてくれた。
とりあえず出来るだけピットスペースに近い場所まで入っていき、クルマから荷物を下ろす。
「それじゃ、春野さん、荷物お願いします」
若い人に荷運びを頼んで、年寄りはゴルフを駐車場に置きに行く。
(やっぱり浜崎さんのクルマはないなぁ)
駐車場に赤いオデッセイは見あたらない。
とりあえず空いたスペースにゴルフを止めて、都築はピットに向けて歩き出した。

春野さんが確保したピットスペースは、ヨコモワークスのすぐ横、操縦台と本部席の間であった。
「こんなええとこ、よく空いてたなぁ」
と思ったら、見覚えのある顔が目の前にあった。
「お久しぶりです」
「あんた、なんでここにおんねん?」
「いや、ちょっと、誘われまして……。遊びに来ました〜」
『遊びに来た』と言ってる割には、そこいらでは売ってないシュマッカーのタイヤに、ヨコモMR4はTカーまで用意している。
(マジやんけ!)
相手は東京人なので、つっこむのはやめておいた。

ピットを設営し、ランチャストラトスTB01をテーブルの上に置いて、受付に並ぶ参加者の列を眺めながらちょっと休憩。
春野さんはいつものごとくクルマの最終仕上げをしている。
RS4ラリーをベースに3ベルト・センターデフ仕様に改造したマシンは、なんだか注目の的である。
隣のピットでは、広坂パパが完バラ状態のMR4を組み始めた。
都築はといえば、ヘッドライトとテールライトの点灯を確認するのみ。
それにしても、寒い。
スキー場のような、冷え切った空気。その上に強風である。
体感温度はマイナス5度を下回っていたといえよう。
春野さんの手はかじかみ、デフボールをギアの上に並べるのもままならない。+ドライバーを操る指が、筋肉痛を起こす。
じっと座っているのが耐えられなくなり、都築は受付待ちの列に並ぶことにした。

*あえて「謎の男」の名を秘してみました。

春野さんのクルマは完成するのか?
ついに現れなかった浜崎さんの運命は?
そして謎の男の正体はいつ明かされるのか? <これは私も知りません。
次回、『閃光の6連マグライト』
スペース・ランナウェイ!!


「RR2000その3」


「今ここでライト点けないでどうするんですか!?」
謎の男がそう言った。
受付と個人写真の撮影が終わり、ドライバーミーティングを兼ねた集合写真撮影である。どうやら、コンクールデレガンスの選考も行っているらしい。
都築はすぐにヘッドライト用のコネクタを接続した。
リトラクタブルヘッドライトと4連フォグランプに埋め込んだマグライト球が点灯する。写真撮影の都合で朝日に向けてクルマを置いているため、まぶしいと言うほどではないが、それでも光っているのははっきりとわかった。
「前へ置きなさい、前へ」
見知らぬ人が、自分のクルマをどけて最前列に並べてくれた。
「あのクルマ、ライトついてるで」
「あ、ホンマや」
という会話も聞こえる。ほくそ笑んだ。この一瞬のために、都築は手間暇かけているのである。
気がつくと、山崎編集長がライトを熱心にのぞき込んでいた。

『関西はラリー熱が高いと聞き、やってきました』
開会式で山崎編集長がマイクを持った。
(レースやってないっちゅうねん)
心の中でつっこむ。
『RCワールド主催のレースでは、レースの成績よりも実車感を大切にしたいと思っております』
謎の男が都築の脇をつついた。
「コンデレ、いただきですね」
(うん、まあ、レンズカットまでステッカーで再現した6連ライトの実感は自信作なんだけど……)
都築は不安の方を口にする。
「塗装は失敗しまくりですから、わかりませんよ」
実感であった。

開会式に続いて、ドラミが行われる。
レースの進行をフォルムの斉藤氏が説明しているそのとき、一陣の風とともに轟音が起こった。
ヨコモピットのテントが風に倒されたのである。
テントの支柱が、AORc勢のピット付近を直撃していた。
都築と謎の男が走る。
支柱は春野さんの荷物から数センチのところをかすめて倒れていた。
「テントはやめておいた方がいいでしょうね」
広坂パパの言葉でヨコモピットからテントが除去された。
ドラミは続いていたが、都築はそれを聞いてはいなかった。

「ああ〜。デフボールがぁ……」
結局組みかけのままボディだけをかぶせて受け付け&集合写真を終えていた春野さんは、ピットに戻るなり悲鳴を上げた。
デフギアの上に並べて置いたデフボールが散乱してしまっているのである。
仕方なく彼はパーツケースから新品のデフボールを取り出した。

やっと走り出すラリーカー。
春野さんのクルマは組み上がるのか?
そしてついに、あの男が現れる。
次回『浜崎さんの受難』
君は、時の涙を見る。


「RR2000その4」


「ども〜ッ!」
軽〜い挨拶に振り返ると、妙なヘルメットかぶった自転車親父がいた。
あ、浜崎さんか。
「どうしたんですか? 浜崎さん」
「いや〜、仕事で急な出張で。インターネットもでけへんとこにおったもんで……」
今日もこれから仕事だという。
「あいや〜、だうも、すいません。私らだけ遊んじゃって、ほんっとに、もう……」
思わず三平師匠になっていた。
「で、どうなんどうなん?」
「いや、まだ走ってませんから……」
「あ、そう。コース、広いやろ」
「めちゃめちゃ広いっす」
「あ、コースきれいになってるやん」
そうなのである。実は、我々がピット設営している間も、まるで土木工事のようなローラーが出動して路面の整備をしてくれていたのだ。
「そいじゃ、これから仕事行って来るわ」
「お疲れさまでーす!」
都築と謎の男が浜崎さんを見送る。
春野さんがしゃべらないと思ったら、タイヤを貼っていた。

アナウンスはもうすぐ練習走行が開始されることを告げていた。
春野さんは3組目に出走の予定である。彼が焦りだすのも無理はない。
4組目の都築と5組目の謎の男は、余裕をぶっこいて1組目・エキスパートクラスの走りをコースサイドで見物している。
「う〜ん、速い」
謎の男が言った。このコースを初めて見る都築には、なにがなんだかわからないうちに4分間が終わっていた。
2組目の練習走行開始。
春野さんの作業はまだ終わらない。
「おいおい、大丈夫かい? あと4分やで」
「もう、終わりますから。今、バックラッシュ出してるんで……」
強風吹きすさぶピットで、最後の調整は萩原アナの『あと20秒です』
の声が聞こえるまで続けられた。
「それじゃ、行って来ます!」
やっと完成したマシンをひっつかんで操縦台下に走っていく春野さんを「いってらっしゃ〜い」
残った二人はのんびりと見送っていた。

「さて、そろそろ」
都築の走行は春野さんの次である。
余裕を持って3分前にはピットを立った都築に、声をかける者があった。
「あ、もしもし、こっち来てください」
「は?」
都築は、男の顔を見た。

次回『迷走の高木オフロードコース』に、
フェード・イン!


「RR2000その5」


都築に声をかけた男は、RCワールド誌副編のマッキー氏であった。
「ちょっとあっちで、撮影お願いします」
「え、あの、この次、走るんですけど……」
「大丈夫ですから」
促されて本部脇に行くと、ワールドドロームでも見かける小太りのカメラマンさんが待っていた。
どうやら個別写真とは別に、クルマを撮影するらしい。他にも何台か撮影されているクルマがある。
「ここにお願いします」
言われた場所にクルマを置く。
「ヘッドライト、点けましょうか? 写真、写ります?」
「点くんですか?」
「ええ」
「是非点けてください」
と、まあ、こんな感じの会話を交わして、撮影を済ませる。
終わったときは、練習走行3組目の終了直前であった。

受信機電源のスイッチを入れ、バカに高い操縦台に上る。
『高さ6m』と聞いてはいたが、なにしろ広いサーキットである。
実際に上ってみるまでその高さを実感することはなかった。
上ってみると、当然のことだが風は地上より一段と強く、冷たい。
(この寒さで、ちゃんと手が動くのかなぁ……)
自分の腕も考えに入れず余計な心配をしながら、都築は操縦台の右端に立った。

4分間の練習走行がスタートした。
予選は1ラップのみの計測であることを考えれば、5分間レースとなる決勝にむけて燃費を測れるのはこの1回切りである。
都築は、他車がスタートするのを待って、ゆっくりとスロットルをあげた。
1コーナーに進入。
(はいや〜!)
マキマキである。
実は都築の車、1月20日にオンロードサーキットで走行して以来、少しセッティングを変えてそのままの、オフロード初走行だったのだ。
ステアリング舵角がほとんどないにも関わらず、切った瞬間にテールが流れ始める。
(こりゃ、ダメじゃ〜)
当てないようにゆっくりと、コースを回ることを決意した都築。
(はいやぁ〜!!)
今度の悲鳴は、コースによってもたらされた。
ハチイチバギーでも1分はかかるという広大なコースの上に、激しいアップダウン、コースの仕切りに使われているホースは15センチ以上はありそうな太さ……。
そう。ライン取りによってはマシンが全く見えなくなってしまうのだ。
自分が、コース内のどこにいるのかもわからない。クルマの前にどんなギャップがあるかなど、見る余裕があるはずもなかった。
特に奥のヘアピンを挟んだ二つのストレートに至っては、地上にしゃがみ込んで操縦しているような感じである。
(ひ〜!)
3分以上かけてやっと2周し、3周目の1コーナー。
見ればヘッドライトから何かが垂れ下がっている。
(ヘッドライトの電飾が壊れてる〜)
それからあとは、とにかく当てないように、部品をばらまかないようにコースを一周することだけが目的になった。
(先に写真を撮影して置いてもらって良かった)
心底そう思ったモノである。
都築の4分間の練習走行は、こうして終わった。
すごすごとピットに引き上げた。

電飾の破損具合はいったい?
春野さんのセンターデフカーの走行インプレッションは?
次回『困惑のカストロールセリカ』
月の光は、愛のメッセージ


「RR2000その6」


自分が走った後はコースマーシャルをやる。
これがラジコンレースでのお約束である。
というわけで、都築はコースの反対側、バックストレート側に立った。
マーシャルをやるのは当然だが、実は彼にはもう一つ目的があった。
(落っこちちゃってたヘッドライトのリフレクタを回収したい)
のである。
コース上を走るのは予選5組目、『謎の男』=浦野Jrさんの組だ。
が、なんとこの組には彼を含めてST205型カストロールカローラが3台走っていた。
(どれが浦野Jrさんやねん?)
ゼッケンを覚えていなかった都築には、さっぱりわからない。
と、その時、都築の目の前でコース脇のギャップにはまるクルマがあった。
プジョー206ボディ・ポケモンカラーである。
(浦野Jrさんじゃないや)
安心しながらコース上に置き、元の位置に戻る。
『あと30秒です』
萩原アナの声が聞こえた。
目の前を、青いインプレッサが駆け抜けていく。
キラリと何かが路面で光った。
(あれは!?)
リフレクタである。さっきのインプレッサが蹴り上げた瞬間、太陽の光を反射したのだ。
もうそれからは都築はマーシャルどころではなくなった。
コース中央に落ちているそれを、誰も踏みませんように、割れませんように、と祈りながらヒートの終了を待つ。
そして、ヒート終了の声。
全車が通過するのを待って、都築はリフレクタを拾い上げた。
(割れてない……)
ラッキーだった。ピットに帰る足取りが軽くなった。

「センターデフが緩んでました〜」
ピットに帰るなり、春野さんがそういった。
「なんか走ってるときに、キュイーンて音してましたから」
センターデフを締め込んでいる。
都築はといえば、まずボディの破損のチェックである。
飛び出した電飾には、リフレクタは5個ついていた。たった今コース上で回収したモノを含めて、数はすべてそろっている。
だが、コードが断線していた。細いコードの予備を持ってきていない都築は、すぐに電飾をあきらめた。
ショートをさけるため、ヘッドライトに電源を供給する線を、バッテリーコネクタの根本から切断する。カラになったライトポッドをボディにはめ込み、テープで押さえる。
(まあ、これでもテールランプは点くから……)
そう思い直して、シャシーのセッティング変更を始めた。
まずリアのスプリングを青から赤に換えることから、である。
さらにリアグリップを確保するため、リアスタビを外す。
対策を施してあるとはいえ、弱点とおぼしきリアバルクヘッドをチェックし、バッテリーを交換する。
予選1回目は軽量さに賭けてタミヤ1400SPを選んだ。
予選はこのコースを1周するだけである。どう長く見ても2分走れればよい。本来ならばギア比を上げられるだけ上げたいところだが、すでにTB01の限界まで上げていた。
モーターにコミュドロップまで注している春野さんと浦野Jrさんを後目に、たったこれだけで整備を終え、ベビースターラーメンを取り出す。
(この寒さじゃ、なんか食ってなきゃ凍えちゃうよ)
よくわからない理屈である。

ついに予選1回目。
セッティング変更は吉と出るか凶と出るか?
いや、それ以前にまともに走らせられるのか?
次回『幕開けのポディウム』
どきどきわくわくくるくるま〜われッ!


「RR2000その7」


予選1回目。
木製のパルクフェルメの上にゆっくりと車を進め、写真撮影の後フラッグが振られるのを待つ。
(ふつうなら緊張するんだろーなー)
今の都築には緊張よりも不安の方が大きかった。
スタート!
1コーナーに飛び込んだ瞬間、その不安が的中していたことを知る。
(マキマキ〜ッ!!)
心の中で叫んでいた。

ものぐさな都築はサーキットでセッティングを変更したり大工事したりするのが嫌いである。
走るための最小限の変更・加工しかしない。
予選一回目が終わった後、フロントワンウェイを自宅で組んできたギアデフに取り替え、バッテリーを交換するだけで次の予選に挑むことにした。
バッテリーはマッチドの1本目、オリオンの1700を放り込む。
そして2回目のパルクフェルメ。
乗せるのに失敗し、横から落っこちる。
マーシャルが助け上げてくれた。
スタート!
(マキマキマキ〜ッ!)
またもや心の叫びがとどろく。

予選走行は3度。これが最後のチャンスである。
まだ不安は消えない。その源は、実はクルマそのものにある。
HS高木サーキットはハチイチバギー中心のコースらしく、その路面のギャップは激しいモノがあると、事前の情報で聞いていた。
その対策のため、都築はTB01を長足化してサスストロークを稼ごうと考えたのである。
しかも、カールソン・ランチャストラトスボディはフロント部が180mm幅しかなく、タミヤノーマルのサスペンションでもタイヤがはみ出してしまう危険があった。
フロント部はアトラス製ピュアテン用ナイロンサスアームを加工して何とか取り付けることに成功。サスジオメトリも、長足としては問題ないように思えた。
だが、リアは話がややこしかった。
どうにも合う足が無かったのである。
数ミリのホイルベースの変化に目をつむって採用しようとしたプロ2足は適合するユニバが無く、TF足は長さが中途半端で使えず、もはや前足のようにナイロン足を加工して取り付けるには時間がなかった。
そこで、リアのみをノーマルの足のまま持ち込んだのである。
ノーマル足は対地キャンバー変化が大きく、フロントに対してグリップ負けすることは容易に想像できたのである。
が、実は都築はこの組み合わせのクルマをもう一つ持っていた。
オンロードで主力となっている、M04LWである。
フロントにプロ2用、リアにTL用の足を持つあのクルマは、オンロードのハイグリップ状態では非常に走らせ易い特性を持っていた。
(あれとおなじだから大丈夫だろう)
都築は自分に無理矢理そう言い聞かせて、今日のこの日に臨んでいたの
である。

手の施しようがなかった。
都築はタイヤを新品に替え、最後の予選を待った。

*休憩中の記事は春野さんのレポートに詳しいので、私の文だけ書いてみました。あと1回か2回で終わります。

新品タイヤの効果はいかに?
そして決勝前、都築はもう一つのセッティングポイントを見いだした。
次は『置いて〜〜!!』に止まります。


追伸:私のページに、修復なったボディとコンデレ賞状との画像を追加しておきました。実はシャシーはまだ直ってないんだけど。
小石を蹴り上げたみたいでインナボディはバキバキに割れていたし。

http://www.osk.3web.ne.jp/~tsuduki/


「RR2000その8」


予選3回目である。
先ほどからちらほらと待っていた雪が、はっきりとそれとわかるようになっていた。
だが、路面は湿り気を帯びる程度で「濡れる」にはほど遠い。
グリップは増すものと思われた。
(この程度じゃ、さして期待はできないが……)
都築は悲観的だった。
「実車みたい」
コロコロと変わる天候に、誰かがそう言った。

フラッグが振られて、都築はスロットルを上げた。
予想通り、マキマキのままである。
それでも新品タイヤと湿り気を帯びた路面によって、さっきよりはグリップ感がある。
スロットルも上げられるようだった。
が、それがかえって落とし穴となった。
操縦台正面のインフィールド、小さなジャンプを越えた後に、大きく左に曲がるコーナーがある。
そのジャンプを、飛びすぎた。
舵角がほとんどない都築のマシンは、コース中でUターンできずにフェンスに突き当たった。
(あいた〜)
後続車が通り過ぎるのを待って、コースをショートカットして走り出す。
が、これではタイムの更新は無理であった。結局マキマキ状態のままスロットルを上げることもなくただ無難に走っただけの予選1回目のタイムが、都築の予選タイムとなった。

いくらジオメトリが良くないとはいえ、あそこまで巻くのは変だ。
都築は、昼休みの時間を利用してあちこちのピットを見て回った。
見たかったのは、タイヤとアライメントである。
この状況でのHPIソフトは、手に入る中ではベストのはずである。
そのタイヤで巻いてしまう理由は、アライメントにあると思っていた。
TB01のサスペンションは異常にガタが大きい。
改造してあるフロント側は許せる範囲ではあったが、リアは、トーインからトーアウトまで動いてしまうほど、ガタが大きかった。
(こればかりは、応急処置ではどうにもならないが……)
キャンバーを強めることもできなかった。
これ以上キャンバーをつければ、ユニバがカップに突き当たってサスがストロークしなくなる。
そんなことを考えながらピットを歩いているとき、ふと、あるクルマのタイヤが目に付いた。
タイヤ自体は同じHPI製のパターンである。だが、どこかが違った。
(パターンが、前後で逆だ……)
回転方向指定付きのHPIタイヤでは、その取り付け方向によって特性を変化させられるのだ。
(リアだけを、横方向グリップ重視の方向に入れ替えれば……?)
そろそろ昼休みも終わり、本線がスタートしようとしていた。都築が走るのは2番目のヒートである。彼はピットに急いだ。

決勝は5分間で争われる。
1周が1分以上かかるこのコースでは、へたをすると6分も走らなければならなくなるのだ。
バッテリー容量が心配だった。
都築は2000のバッテリーしか手持ちがない。それを入れて、グリッドにならんだ。
操縦台に上りいざスタートという段になって、他車が指定されたバンドに変更していなかったことが判明。大幅にスタートディレイされる。
「バッテリーが減るやんけ」
隣のドライバーがつぶやいた。
ブザーが鳴って、スタート!
一瞬出遅れたものの、他車が1コーナーで絡む中をすりぬけて、一時は3位ぐらいまで順位を上げた。
クルマはまだ巻き癖があるものの、さっきまでよりはかなりマシである。
(なんとか5分間、我慢して走ってくれ)
それだけを祈っていた。
だがそれは、5分を過ぎてからやってきた。
すでに何台かはゴールラインを越えている。都築のストラトスは最終コーナーにさしかかった。
突然、右に巻き込む。
(なんだぁ!?)
フェンスに突き当たって動かなくなっていたマシンを、マーシャルがコースに戻してくれた。最終シケインの途中、あとは直進するだけでゴールである。
スロットルを上げる。
クルマはまたもや右にくるりと回転し、フェンスに突き当たった。
(タイロッドをやったか!?)
再びマーシャルがクルマを持ち上げた。裏側を見て、次に操縦台に顔を向けた。走行不能と見て、リタイヤさせるつもりらしい。
「置いてぇ〜!!」
マーシャルに向かって叫んだ。
まっすぐ走れさえすればゴールなのである。
怪訝な顔をして、マーシャルはクルマをコース上に置いた。
ステアリングをいっぱいに左に切り、スロットルを上げる。
(過重をリアに乗せさえすれば直進だけはできるはずだ)
操縦台から見える左前輪は、可動範囲いっぱいまで右に切れていた。
それでもクルマは直進している。
コースを斜めに横切るように、ゴールラインをまたいだ。
ポンダーの反応する音が、聞こえた。
なんとか完走だけは果たした瞬間であった。

次回、最終回『人心地のカツ丼定食』
Don't miss it.



 都築先生、最終回のオチを期待してます!!(^^;


 みなさんのご自慢をどんどん「なんでも掲示板2」に投稿してくださいね。お待ちしてます!


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